綺麗な夜空












おかあさん!

おかあさん!

すてないで!

いやだ!

すてないで!!

おいて、いかないで!!





「おかあさん!!」
はっと目を見開き、からだが息をするのを思い出して空気を求める。
げほ!げほげほ!
収まらない激しく不規則な動悸と、体を折って出る濁った咳。
エラーラが、不安な光を弱弱しく寝室を照らす。
クイッキ−が起き出し、たたっと戸口の方に駆けていってしまった。

夜の闇からネレイドの手に捕まってしまいそうで、メルディは身を震わせた。
毛布を引き寄せ、掻き合わせる。

「オ、カアサン……」

ぽろぽろと涙が涌いてきた。
色々な事が、短い間にたくさんあって。
セレスティアとインフェリアはばらばらに離れてしまって。
だいすきな仲間達も、遠い星の彼方に在る。
生まれた街も、育った街も壊れてしまった。
もっと、もっとイイコトたくさんあったはずなのに。

頭がぐるぐるまわって、ネレイドが乗り移ったみたい。


「いやだ……いやだよぅ……」




怖かった。



闇が。自分が。ひとりが。





「いやだぁ!」




だんっ
「メルディ!?」

「くく!クイッキー!」
はっと顔を上げると、クイッキーに呼ばれるようにキールが走りよって
来ていた。
「キー…ル……」呆然と見上げる。青い毛皮が、メルディの膝の上に登る。
「どうした?!」
慌てた様子で足元危うく駆け付ける青年に、命綱の様に、しがみつく。
潰されそうになったクイッキーは慌てて非難する。
ふわふわのシルバーピンクの髪も震えていた。

「……また、夢か?」

こくん、と小さく頭が動く。
ふたりはごく最近一緒に住み始めたのが、その少ない日にちでもこんなことは常習となっていた。
一日置き程の頻度で、メルディは泣き叫んで飛び起きる。

(傷が深くて多すぎる…)

ベットに腰掛けかぼそい体を抱いてやりながら、深刻な顔で考える。
こうしていると、落ちつけるらしく、泣き疲れ眠るのだ。
キールの視線の先にはクイッキーの不安そうに揺れる尻尾が写っていた。
 
(こいつはなまじ、明るい顔をするのに慣れきってる。無意識下の精神的負荷が多すぎるんだ)

キールは自分をもどかしく思った。
こういう時、どうすればいいのかわからない。

(ファラや、リッドなら、上手く支えてやれるんだろうが……)

守って、やりたいのに。

「……キール……ごめんな、おこしたな」
まだちいさくしゃくりかえしながら、メルディが囁いた。
「あ、いや。研究の為に起きていたからだいじょうぶだ。」
「……そか……あのな」
「なんだ?」

ためらいがちに、ぽつりと呟きがおちた。
「ちょっと、怖いな。ネレイドが、来そうで」
「……そうだな。」
「だからな、こうしてて……」
「えっ」と、見下ろすとメルディは広いおでこをキールの肩にこすりつけた。
「キールといると、不安消えるの。楽しい夢、みれるの。みんないっしょ……たのしい、ゆめ。」
「……ああ。」
「キール、一緒のお家にいるのに、一緒に寝てくれない。どしてか?」



爆弾投下。

「な…!!!!」

夜目にもはっきりとわかるくらい、キールは赤くなった。

「なななななななななな」

家族になった男女は、一緒に寝るものだとメルディは思っている。
当然のことをしてくれないキールにも、不安を感じているのだ。
「キール…………メルディ嫌いか?」
血を吐くような声。
メルディが一番恐れる事。

もう誰にも嫌われたくない。

不安そうに見上げる大きな瞳に、キールは物凄く動揺し物凄く早口になった。
「いや、きらいとか、そういうことではなくて…」
真っ赤になって口篭もるキールを、メルディは恐怖をこらえてじっと見上げている。
「こ、こ、困るんだよ!」
「でも、メルディいっしょがいい。キールといっしょ。」
真摯で必死なひとみに、キールは当然と言うべきか負けた。

「………………………わ、わかった」
少々長すぎる沈黙の後、ひっくり返った声がどこから出たのかこぼれた。
腕の中の少女はみるみるうちに顔を輝かせる。エラーラまで輝いた様に見えた。

「わいーる!キール、いっしょだ!」

その言葉を聞いてそうしてよかったと心から思った。
輝く笑顔がキールをほっとさせる。
嬉しそうに顔をほころばせたメルディは、慌てるキールをベッドに引っ張り込んで寝る体勢に入った。
「お おい!」
見守っていたクイッキーも安心した様子で枕もとに寝床を決める。

「おやすみ、キール」

「………………あ、ああ、おやすみ……」

顔を赤くしながらも、挨拶を返す。




「……………だいすき…………」






ベッドの左側の温度が、急上昇する。
ほてる頬を感じながら、すぅっと寝入ってしまう少女の寝顔をみて、
(こうすればよかったのか)とほっとした。

しっかりと握り締められた服。
そのてをとって、握る。

すっぽり収まる細く小さな手。

この手応えが、なんだか嬉しかった。





その夜、メルディはインフェリアでの旅の夢をみていた。
リッドがウルフを狩ってきて、ファラが美味しいオムレツを作ってくれて。
バンエルティア号で鮮やかに美しい海を走るチャット、それをからかうフォッグ。
それから、キールとみた、美しいオルバース界面。



星と雲の光。








綺麗な夜空。





その夜、キールは見事に寝不足だったけれど、それはいつものことだったのでメルディは
気付かなかった。
これから、少しずつ幸せな夢が増えてきて
夢が現実になるのは


多分遠い話ではない。










****************
TOE・キル×メルと見せかけてメル×キルかもしれないお話(笑
この二人、ダイスキ。メルディの不幸で半分壊れてかけてて、でも幸せなところが好きです。
キールの、へたれててそれを自分で分かってて、もがいてる様が好きです。





戻。



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