いつもいるのに
いつもみてるのに
いつも一緒なのに










見えない壁がある。
家紋のうちわマークに手を伸ばすけど、けして届かない。
サクラは、時々そんな気がして仕様が無い時がある。

サスケのことだ。

任務でいつも冷静でカッコイイサスケは、いつも完璧である。
ゆえに、隙が無い。
時々幼い顔を見せる時もあるけれど、本当にときたまだ。
今日もまた、見えないかべがサクラを戸惑わせる。
サクラは今日も今日とて、高台の集合場所でサスケと二人きりになったのだが、どうも居心地が悪くていけない。
空には厚い雲が日を遮っている。
目の前には里が見下ろせるが、朝だというのに雲のせいで午後のような暗さである。陰気な天気模様だ。

少し前、チームメイトになる前のサクラでは、ただ恋する相手とこうして二人きりになっただけで舞い上がってい
ただろうが、サクラには浮かれて痛い目を見た経験がある。
彼は暗い目で彼女に「ウザイよ」と言い放った。それはいつまでもサクラの胸を死にそうなほど締め付ける。
サクラはそこで諦めるような性格ではないけれど、やはり前ほど軽率には近づかない。
たぶん、その壁は、うちは一族の悲劇が関係しているのだろう。

うちは一族は、サスケとその兄を残し全滅した。
以前サスケがサクラに漏らした「復讐」ということば。
暗く重いその過去と目的が、幸せに育ったサクラを拒んでいる。


それでもいつまでも無言でいるわけにもいかず、サクラは樹によりかかった少年に話しかけた。
「サスケ君……えーと、ナルト達遅いね」
「………ああ」
様子はどうであれ、ちゃんと返事は返ってきた。つかみはOK。
ちょっとほっとしながら続ける。
「なにしてんのかな。カカシ先生にくわえ、ナルトまで」
「どうせ寝こけてるんだろ、あのウスラトンカチは」
「そうだね、ナルトだもんねー。ありそう!あはは」
「…………」

また沈黙。

話すことが無い。笑った口がむなしくて、はあ、とため息をつく。
どうしたら、サスケ君は心を開いてくれるんだろう。

かたくなな彼。
まるで近づいてくれない、警戒心の強い彼。

数多くの任務を七班でこなしてきて、仲良くなっていると思うのに。
やっぱり距離は遠いのだ。
天気まで陰気だし、もう最悪。サクラはなんだか気持ちがへこんできた。
この天気のせいだ。やつあたりぎみにつぶやいた。

「やな天気ィ……」




「そうでもないぜ」





「え?」
横をみると、サスケは遠く空を見上げていた。
ぱちぱちと瞬きしているサクラを横目でちらりとみると、
「あれ」
とまた目を遠い空に戻した。





「わぁ……!!」






遠く厚い雲の隙間から、黄金色のひかりがまっすぐ地上に降りていた。
ひかりの帯はいくつもかさなって木の葉の里に降り落ちている。
粒子がきらきらと散らばって輝き、里の緑や建物におちては弾けている。
さっきまでの暗さが嘘の様に、里は明るく照らされている。



「凄い……きれい……!」天使のはしご……はじめて見た…」
「?てんしのはしご…?」
感激しているサクラの横でいぶかしげなサスケに
「そう。あれ、確か天使のはしごって言うの。天使が天国に上っていくみたいじゃない?」
キラキラ目を輝かせるサクラに、サスケはまぶしそうに目を細めた。
「そうか……」
またその光の氾濫にめを戻して、見入る。

「凄いな……」

その横顔が、ふと笑んだ気がした。

(え?)
まじまじとサスケをみるサクラに、サスケが不思議そうに「なんだ?」と聞く。
サクラはちょっと少年を見つめていたけれど
「ううん!なんでもない!」
と笑った。

天使がいろんなものを包んで、やわらかく持っていってくれたのだと思った。



「綺麗だね」

「ああ……」


穏やかな時間。
この瞬間だけは、サスケとサクラの間にあった壁はなくなっていた。
少なくともサクラはそう感じた。
なかなかこないカカシとナルトにこの時ばかりは感謝する。




「わたしね」
「サスケ君が好き」



なんて。

口走りそうに成ったけど、いわずにおいた。
この空間を壊したくなかったから。
「今日は良い日になりそう」



それからすぐに天使のはしごは消えてしまったけれど、それからもふたりはしばらく空をみていた。
その沈黙はけして重くなくて、むしろ心地の良い沈黙だった。
1時間ほどおくれてきたナルトは、サクラの雷がいつくるかとひやひやしながら来たけれど、穏やかに
「遅かったわね」と笑うサクラを不思議そうにみていた。
でもそれから更に1時間遅れできたカカシには、いつもどうり特大の雷が落ちた。





壁は、なくなってはいなけれど。
ちいさな扉が ひらく。

そうしたら、手を伸ばせばうちはマークに手が届くのだ。







*************
ちょっとナーバスになったサクラと、それを払拭するできごと。


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