ずっと
闇の中にいて
見たことのない

           世界
見えるのは
     あの人の白いからだと
             黒い柵と
                 暗い城と
                    ただひとつだけ


窓から注ぐ光

蒼い空

白い浮かぶもの

動いて羽ばたくもの





ただそれだけ





      ICO





さっき覚えた冷たい風が、嘘の様に、今は暖かい空気が流れていた。
ヨルダは時と言うものを知らない。
さっきと言う時間はいつのものかも分からない。
明るい時。暗いとき。
それだけ。
窓から覗く蒼かったり灰色だったりするものは、一度も同じだったことは無いけど。
自分がいつからこの城にいるのかわからない。
ふと気がついてから、ずっとこの体だったし、
ふと気がついてから、ずっとこの城の中に居た。
あの人はいつも暗くなると私の元にくるけれどなにも変わらないし、
城も、いつも冷たい空気をしていた。
この檻から出たことはないけれど。
この黒い、硬い、冷たい、場所から見えるものが、ヨルダの全て。
ヨルダの、世界。

今日は暖かかった。
少し冷たい霧は晴れ、日差しが窓から射していた。
窓に掛かる千切れて残った布が、日を透かしてはためく。
ヨルダはまどろみの中に居た。
膝を抱えて、額をつけて。
日は掛からないけれど、暖かい。
ふと音がした。
顔を上げると、白いもの。
それは、窓辺にとまって、自分の白い体をついばんでいた。
檻の隙間から腕を伸ばすと、ちょっとこっちを見た。
「また来てくれたのね」
驚かせない様に小さな声で囁く。
ヨルダはたしか前にいちど、自分の世界にこの動くものがきたのを覚えていた。
音がして、顔を上げると檻の中に入り込んできていた。
そのときは、ヨルダは動けなくなって、ようやくそろそろと触ろうとしたのだけれど、驚いたのかいってしまった。
小さな生き物。
空を飛んでいくもの。
触ってみたい。
自分と、あの人以外の、モノ。
しばらく待ったけれど、白いものは動かなかった。
ただこちらを時々見たり、体をついばんだり、ちょっととまっている位置を変えてみたりするだけだった。
疲れて腕を下ろしても、ヨルダの瞳はずっと白いものを捕らえていた。
視線に耐えられなくなったのか仲間に呼ばれたのか、それはふとそとを見て、羽ばたいていってしまった。
「あ…っ」
いってしまった。
寂しい。
しばらくじっと白いものが来て行った窓の空を見ていたけれど。
また体を丸めてうずくまる。
今日は、良い事があった。
暖かい。
むねが。



そして


「だれ?誰かそこにいるの?」





そして見た。
自分と、あの人と、さっきの白い来訪者以外の。
ヨルダの世界の外のモノを。






PS2用ゲーム「ICO」
良いゲームです。とても綺麗で透明な世界観を持っています。
聞いたこともあるんじゃないでしょうか。
主人公が、謎のおんなのこの手を繋ぎ、襲い来る影から逃げるというゲームです。
これは謎の少女、ヨルダが、イコに出会う前のはなし。
ヨルダの小さな世界の話です


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